ジャカルタの日本人が思うこと

ジャカルタ在住15年の日本人が思う、日本とインドネシアのいろいろなこと。

日本の物価安すぎ問題:サービス料を課すべきだ

年に1、2回、日本に一時帰国するのだが、日本の物価の安さに毎度、驚かされる。書き間違いではない。日本は物価が安いのだ。コストパフォーマンスが高いとも言えるかもしれない。

ジャカルタでは道端の屋台で食べれば一食100-150円くらいだろうが、中級レストラン(ちょっと贅沢なランチ、ぐらいのイメージ)で食べると日本と同じかそれ以上の価格を請求されることになる。
私の地元(千葉市)でちょっと人気のイタリアンレストランでは、ランチコース(前菜、パスタ/ピザ、デザート、コーヒー)が2000円だが、ジャカルタだともっと高いか、同じ値段だけど味や素材が遥かにしょぼいかのどちらかな気がする。
つまり、食事に関して言えば屋台や庶民向けレストランは安いことは安いが、中級以上のものになると日本以上の価格になる。

おいしいインドネシア料理―家庭で作る本格レシピ50選

おいしいインドネシア料理―家庭で作る本格レシピ50選

 

 考えられる理由は、インドネシアではちゃんとしたサービスをする従業員の確保が難しい。庶民的なレストランのウェイターは、客に呼ばれない間はスマホで遊んでいるなんてザラだし、間違った料理が運ばれてくる確率も日本の100倍くらい高い。
中級以上のレストランでは、さすがにそれではまずいので、きちんとしたウェイターを雇用するのだが、ちゃんとした料理のサーブをするというのは、国際的に見たら立派に一つの技能なので、それに見合った賃金を支払わないと人が集まらない。そのコストは当然、料理の値段や会計に加算されるサービス料に反映されることになる。
消費者としては値段が高いのは辛いけど、でもこれはどう見てもインドネシア(というか日本以外の全ての国)の方が正しい。日本ではアルバイトのウェイターにまで、ちゃんとしたサーブを要求するが、雇用者はそれに対する報酬を与えず、客もサービス料も払わずにサービスを要求する。アルバイトが主力のレベルの店だったら、注文した料理が間違わずに出てくるだけでよしとするべきなのだ。

私は日本の友人に「日本はお客さんとして来るには最高の国」「日本でサービスを提供する側になってはいけない」と茶化して言っているが、これは偽りのない本音である。飲食店は競争上、値上げは難しいのかもしれないが、もういっそ法律で「10%のサービス料を課して、従業員の賃金に加算する」とかしちゃったらどうだろうか。

 

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サービス料を取られないタイプのお店



 

ジャカルタはノラネコ天国:奴らは都会の異邦人だ

イスラム的にはイヌは不浄な動物だが、預言者ムハンマドが好きだったといわれるネコはインドネシアでも人気のペットである。イヌを飼うのは華人などの少数派で、ネコの人気が圧倒的だ。とはいっても、普通の庶民的インドネシア人は、放し飼いというか、ノラネコに餌付けしているだけというか、日本でも昭和の頃によく見られた飼育方法をしている。完全室内飼育をしているのは若い中間層以上か在留外国人ぐらいのようだ(私もその一人だ)。

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妻の実家に勝手に侵入しくつろぐネコ

 

飼われているネコは多いが、ノラネコも多い。日本ではノライヌどころか、ノラネコさえあまり見なくなったような気がするが、ジャカルタは屋台の周りに集まって食べ物をねだったり、日陰でごろ寝していたり、ノラネコだらけだ。当然のことながら、やせ細っていたり、ケガしていたり見ていてかわいそうになってしまうようなのも多い。

ノラネコがたくさんいる事がいいことなのか、悪いことなのかはよく分からない。ジャカルタでは雨季になると頻繁に洪水が起きるが、その際に体力のない幼児やお年寄りが感染症でなくなることがある。この感染症は動物の糞が洪水で溶け出し、傷口から人体に侵入するケースが多いと聞く。ネコの糞による感染症もあるので、公衆衛生上の問題といえるかもしれない(ただ、一番危険で多くの感染症を媒介するネズミを狩ることでトータルでは公衆衛生に貢献しているような気もする)。

 

 インドネシアのネコもちゅーるは大好き


個人的にはノラネコがいる街は嫌いではない。人間に飼われているネコは幸せそうだが、完全にペットで、自立した存在ではない。だけど、ノラネコは時に人間に甘え利用しつつ、人間とは異なる理で暮らす別の生物だ。
別にノラネコに限らず、アリもハエもそうだと言われればそうなのだけど、ある程度大きくて、感情の存在が感じられる哺乳類が身近なところで、人間と肩を並べて生きているという事実はちょっとエキサイティングじゃないだろうか。
ノラネコという言葉が強くたくましく生きる者の比喩で用いられることがあるように、彼らは決して人間のペットでもジュニアパートナーでもなく、対等の存在。ノラネコは何と言ってもそういうクールな生き物で、「もののけ姫」に出てくるイノシシ神や犬神たちのような人間に征服されていない動物だ。
地球は人間のものだけじゃないし、人間の生き方だけが正しい生き方でもないし、人類がたどってきた進化だけが正解なわけでもない。外国を知ることで、自国のいいところ、悪いところを相対的に理解できるようになるというけど、それだったら、身近な異生物であるノラネコから学べることも多いはずだ。

ジャカルタが人口世界一に!?:マジ勘弁してください

報道によると、2030年までにジャカルタ首都圏の人口が東京首都圏の人口を追い抜いて世界一になるそうだ。世界一になる、というと景気のいい話に聞こえるかもしれないし、人口の流入はある部分では都市の活気につながるのも事実だろうが、実際にジャカルタ圏に住んでいる者にとっては間違いなくバッドニュースである。

 アジアの大都市はシンガポールや上海などの例外を除けばまともな公共交通機関が乏しく、ある程度お金がある人はバイク、車を買うので道路は慢性的に渋滞する。道路も道路で設計が悪いし、路上駐車も無茶な割り込みも当たり前の交通マナーなのでこれらも渋滞を悪化させる原因の一つになる。あと手押しの屋台や馬車(子供向けの遊興用)がのんびりと走り、一車線を占拠していたりする(これは嫌いになれない部分だ)。
結果的に道路は慢性的に大渋滞。空いていれば30分ぐらいの距離も、朝夕のラッシュアワーは2時間ぐらいかかる。このせいで以前は都心に住む人が多かった在留日本人も、今は工業地帯のある郊外に居を移す人が増え、そちらに新たに日本人学校が新設されるほどだ。

とはいえ、さすがにインドネシア政府も手をこまねいているばかりではなく、日本の支援で地下鉄(MRT)が建設されているほか、LRTという専用の高架路線を持つバスルートも作られている。昔は汚くて利用に耐えなかった国鉄も、いつの間にかずいぶん改善されているらしい。首都圏で使われている電車の多くが日本の中古車両で、JICAか何かの支援なのか駅の雰囲気も日本っぽい。15年くらい前には電車通勤している人なんて見たことなかったが、最近はかなり増えているようだ。
一方で自動車は日によって偶数のナンバー、奇数のナンバーの一方しか都心に乗り入れられなくなるなど規制が強化されている。

趨勢としてジャカルタも遅まきながら公共交通機関へのシフトが図られているのは明らかだ。都心の日本製地下鉄は在留外国人も安心して使える足になるだろうし、鉄道を利用するケースも増えるかもしれない。国鉄は駅をショッピングモールやマンションと連結するようなリノベーションもしている。今までは高速入り口近くのマンションが人気だったが、自動車規制が強まれば、それよりも駅前のもののほうが値上がりする可能性もある。
世界一の人口になるジャカルタ圏で、具体的にどのような人が、どこに人が住んで、どうやって移動して、どこで働くのか、今までとは大きく変わってくるだろう。企業や僕のような移住組の生存戦略には絶対に織り込まなければならない要素だ。

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バスは走るよ、排ガスを撒き散らして

 

 

ライオン・エア事故・人を育てるつもりはあるのか?

日本でも大きく報じられているように、ライオン・エアのJT610便が墜落した。


格安航空会社のライオン・エアはこれまでにも散々やらかしてきた。

 


2013年にバリで着陸に失敗し滑走路の先の海に突っ込んだ(死者はなかった)のはまだ記憶に新しい。
また、ちょっと検索すると、パイロットが覚せい剤使用で逮捕されたり、駐機中の機体から燃料が漏れ出したりというやばいレベルのトラブルの記事が次々に見つかる。
時間どおりに飛んだら奇跡といわれてるくらい定時運行は絶望的で、なんの説明もなく長時間遅延し、怒った乗客と小競り合いになることも珍しくない。私の知人にも置いてけぼりにされた人が複数いる(私自身はインドネシアエアアジアに置いてけぼりにされたことがある)。
傘下の地上サービス業務会社は乗客輸送バスの運転手に一切研修を行わず、スタッフ同士の連絡も複数の相手と同時に会話できるトランシーバーではなく、個人の携帯電話で行っていたため、プリペイドの料金が不足し連絡不能になることも頻発。バスが乗客を間違った飛行機へ連れて行ってしまうこともあった。
あまりにひどすぎて、昨年には経営陣が運輸大臣に呼び出され、運行体制の改善を直々に指示され、一昨年には減便や新路線開設禁止の処分を受けたほどだ。

 

ライオン・エアはもともと旅行代理店だった会社が航空業界に参入した、インドネシアの格安航空会社の草分け的存在だ。
インドネシアは国内時差が2時間もあるほど東西に広い国で、しかも多数の島々からなるため、移動にはどうしても飛行機が必要になる。所得がそれほど多くない人にとっては格安航空会社はありがたい存在だ。
しかし、2005年ごろから重大事故が頻発し、EUフラッグ・キャリアであるガルーダ・インドネシア航空を含むインドネシアの全航空会社が乗り入れを拒否されるという事態になった。
当時、JICAが航空事故調査の専門家が派遣されたりして、日本も改善を支援した。ジョクジャカルタガルーダ航空オーバーラン事故があった際に、その専門家に同行して通訳を手伝ったことがあるのだが、現地の空港職員が「炎上した機体に本来は化学消防車を用いないといけないのに、普通の水をかけて状況が悪化した」と「昨日の夜チャーハンを食べた」みたいな後悔の様子も、無知を恥じる様子もなくあっけらかんと言っていたのが印象的だった(調査に答えた職員が直接消火にあたったわけではないけど)。

 

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2007年にオーバーラン、炎上したガルーダ航空

その後、国をあげて改善につとめ、EUの乗り入れ拒否も解除された。だけど、こうしてライオン・エアをはじめとする格安航空会社の事故が頻発し、報道を見る限りだとそれは万に一つの不運ではなく、飛行機を飛ばしていいようなレベルの運営をしていないのは明らかで、起こるべくして起きた事故だったのは間違いない。

インドネシアはこの十数年で大きく経済が発展し、昔では考えられなかったような最先端の機器や設備が導入されることも多くなった。だが、結局のところ問題はそれを運用する人、システムである。
今回、墜落したJT610便も8月に導入したばかりのボーイングの最新鋭機だったそうだ。人の育成には時間がかかるが、1999年に創業したライオン・エアももうじき20週年。賃金不払いや長時間労働が問題になっているという記事も多いところをみると、人を育てるという意識がそもそもなく、多少落ちてもトータルで利益が出ればいいぐらいに考えていると疑われても仕方ない。

 

はじめまして:南方の芸術の島から

はじめまして。

インドネシアの首都ジャカルタに15年ほど住んでいます。インドネシア人の友人と小さな会社を作って生計をたてています。インドネシア人の女性と結婚していますが、子どもはいません。日々なんとなく思うことをつらつらと書いていけたらと思い、ブログをスタートしました。


インドネシアは好きか-こう聞かれると、質問者がインドネシア人であろうとなかろうと大抵の外国人は「好きだ」と答えるだろう。本当に好きな人も多いし、それが一番安全な答えだから「公式回答」としてそう答えてる人もいるだろう。あるいは仲の良い人の集まりだったら、インドネシアへの悪口大会になるかもしれない。外国人の中にはインドネシアに心底うんざりしている人もいる。
僕は「インドネシア素晴らしい。大好き」という人も「インドネシア、クソ。死ね」という人も信用しない、というかまだまだだな、と思う。どう考えてもインドネシアは理想郷でも地獄でもない。長所も短所もある普通の国だ。
日本で生まれ育った日本人なら、日本の素晴らしい点を5個や10個簡単に言えるだろうし、逆に悪い点を同じ数だけあげることもたやすいはずだ。対象を日本ではなく、出身都道府県や母校、あるいは家族にしても同じだ。よく知れば知るほど素晴らしいばかりのものも、悪いばかりのものも(ほとんど)ないことに気付く。
だから、前述の「インドネシアは好きか」と聞かれると、僕は口では「好きです」と答え、心では「好きとも嫌いとも言えない」と答える。日本で日本人にこれを聞かれている外国人も同じなんじゃないかと想像する。

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で、今日は最初のエントリーなのでインドネシアの好きなところから。
インドネシアはさまざまな民族が入り乱れる多民族国家なので、一概にインドネシア文化を論ずるのは難しいのだが、最も人口が多く、中心的なジャワ島(ジャワ人、スンダ人)の文化で僕が気に入っているものの一つが、芸術に対する敬意の高さだ。
あまり収入の高くない人の家でも、たいていカリグラフィー(コーランの一節を書いたアラビア語の書道)とジャワの農村やら伝統市場やらを描いた絵が飾ってある。もちろん複製画かアートポスターに過ぎないけど、日本で油絵(っぽい絵・ポスター)が飾ってある家は珍しいのではないだろうか。
多くのバイクが行き交い排気ガス臭い通りに絵を並べて売る小さな店が普通にあって、絵を買うというのがお金持ちだけの行為じゃないことが伺える。
ある程度余裕のある家庭では、子どもに実学以外に何か一つぐらい芸術を学ばせようという意識も高いようで芸術系の習い事も盛況なようだ。ヤマハのピアノ教室も大人気だと聞いている。
日本風のマンガ教室も人気が高いが、実態は本格的なマンガ作品を作るというより小さな子どものお絵かき教室になっているとも聞く。比較的手軽に始められるアートという位置づけなのかもしれない。

もともとジャワやバリが稲作なら二期作、三期作ができ、その辺に勝手に果物が実っている豊かな環境で、あくせくしなくても生きていけるが故に、こうした芸術(と時間に対するルーズさ)が育まれたのだろう。欧米のリベラルアーツに通じるようなこの芸術への感覚を、大学までもが就職予備校化している日本は見習うべきなんじゃないかと思う。

国や民族ごとに適正の高い職業がある。日本人なら職人や接客だろうけど、ジャワ人、スンダ人、バリ人はアーティストだと思う。この先、ASEANの中でファッションやデザインをリードすることもあり得ると期待している。

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道端の絵描きさん