ジャカルタの日本人が思うこと

ジャカルタ在住15年の日本人が思う、日本とインドネシアのいろいろなこと。

ライオン・エア事故・人を育てるつもりはあるのか?

日本でも大きく報じられているように、ライオン・エアのJT610便が墜落した。


格安航空会社のライオン・エアはこれまでにも散々やらかしてきた。

 


2013年にバリで着陸に失敗し滑走路の先の海に突っ込んだ(死者はなかった)のはまだ記憶に新しい。
また、ちょっと検索すると、パイロットが覚せい剤使用で逮捕されたり、駐機中の機体から燃料が漏れ出したりというやばいレベルのトラブルの記事が次々に見つかる。
時間どおりに飛んだら奇跡といわれてるくらい定時運行は絶望的で、なんの説明もなく長時間遅延し、怒った乗客と小競り合いになることも珍しくない。私の知人にも置いてけぼりにされた人が複数いる(私自身はインドネシアエアアジアに置いてけぼりにされたことがある)。
傘下の地上サービス業務会社は乗客輸送バスの運転手に一切研修を行わず、スタッフ同士の連絡も複数の相手と同時に会話できるトランシーバーではなく、個人の携帯電話で行っていたため、プリペイドの料金が不足し連絡不能になることも頻発。バスが乗客を間違った飛行機へ連れて行ってしまうこともあった。
あまりにひどすぎて、昨年には経営陣が運輸大臣に呼び出され、運行体制の改善を直々に指示され、一昨年には減便や新路線開設禁止の処分を受けたほどだ。

 

ライオン・エアはもともと旅行代理店だった会社が航空業界に参入した、インドネシアの格安航空会社の草分け的存在だ。
インドネシアは国内時差が2時間もあるほど東西に広い国で、しかも多数の島々からなるため、移動にはどうしても飛行機が必要になる。所得がそれほど多くない人にとっては格安航空会社はありがたい存在だ。
しかし、2005年ごろから重大事故が頻発し、EUフラッグ・キャリアであるガルーダ・インドネシア航空を含むインドネシアの全航空会社が乗り入れを拒否されるという事態になった。
当時、JICAが航空事故調査の専門家が派遣されたりして、日本も改善を支援した。ジョクジャカルタガルーダ航空オーバーラン事故があった際に、その専門家に同行して通訳を手伝ったことがあるのだが、現地の空港職員が「炎上した機体に本来は化学消防車を用いないといけないのに、普通の水をかけて状況が悪化した」と「昨日の夜チャーハンを食べた」みたいな後悔の様子も、無知を恥じる様子もなくあっけらかんと言っていたのが印象的だった(調査に答えた職員が直接消火にあたったわけではないけど)。

 

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2007年にオーバーラン、炎上したガルーダ航空

その後、国をあげて改善につとめ、EUの乗り入れ拒否も解除された。だけど、こうしてライオン・エアをはじめとする格安航空会社の事故が頻発し、報道を見る限りだとそれは万に一つの不運ではなく、飛行機を飛ばしていいようなレベルの運営をしていないのは明らかで、起こるべくして起きた事故だったのは間違いない。

インドネシアはこの十数年で大きく経済が発展し、昔では考えられなかったような最先端の機器や設備が導入されることも多くなった。だが、結局のところ問題はそれを運用する人、システムである。
今回、墜落したJT610便も8月に導入したばかりのボーイングの最新鋭機だったそうだ。人の育成には時間がかかるが、1999年に創業したライオン・エアももうじき20週年。賃金不払いや長時間労働が問題になっているという記事も多いところをみると、人を育てるという意識がそもそもなく、多少落ちてもトータルで利益が出ればいいぐらいに考えていると疑われても仕方ない。

 

はじめまして:南方の芸術の島から

はじめまして。

インドネシアの首都ジャカルタに15年ほど住んでいます。インドネシア人の友人と小さな会社を作って生計をたてています。インドネシア人の女性と結婚していますが、子どもはいません。日々なんとなく思うことをつらつらと書いていけたらと思い、ブログをスタートしました。


インドネシアは好きか-こう聞かれると、質問者がインドネシア人であろうとなかろうと大抵の外国人は「好きだ」と答えるだろう。本当に好きな人も多いし、それが一番安全な答えだから「公式回答」としてそう答えてる人もいるだろう。あるいは仲の良い人の集まりだったら、インドネシアへの悪口大会になるかもしれない。外国人の中にはインドネシアに心底うんざりしている人もいる。
僕は「インドネシア素晴らしい。大好き」という人も「インドネシア、クソ。死ね」という人も信用しない、というかまだまだだな、と思う。どう考えてもインドネシアは理想郷でも地獄でもない。長所も短所もある普通の国だ。
日本で生まれ育った日本人なら、日本の素晴らしい点を5個や10個簡単に言えるだろうし、逆に悪い点を同じ数だけあげることもたやすいはずだ。対象を日本ではなく、出身都道府県や母校、あるいは家族にしても同じだ。よく知れば知るほど素晴らしいばかりのものも、悪いばかりのものも(ほとんど)ないことに気付く。
だから、前述の「インドネシアは好きか」と聞かれると、僕は口では「好きです」と答え、心では「好きとも嫌いとも言えない」と答える。日本で日本人にこれを聞かれている外国人も同じなんじゃないかと想像する。

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で、今日は最初のエントリーなのでインドネシアの好きなところから。
インドネシアはさまざまな民族が入り乱れる多民族国家なので、一概にインドネシア文化を論ずるのは難しいのだが、最も人口が多く、中心的なジャワ島(ジャワ人、スンダ人)の文化で僕が気に入っているものの一つが、芸術に対する敬意の高さだ。
あまり収入の高くない人の家でも、たいていカリグラフィー(コーランの一節を書いたアラビア語の書道)とジャワの農村やら伝統市場やらを描いた絵が飾ってある。もちろん複製画かアートポスターに過ぎないけど、日本で油絵(っぽい絵・ポスター)が飾ってある家は珍しいのではないだろうか。
多くのバイクが行き交い排気ガス臭い通りに絵を並べて売る小さな店が普通にあって、絵を買うというのがお金持ちだけの行為じゃないことが伺える。
ある程度余裕のある家庭では、子どもに実学以外に何か一つぐらい芸術を学ばせようという意識も高いようで芸術系の習い事も盛況なようだ。ヤマハのピアノ教室も大人気だと聞いている。
日本風のマンガ教室も人気が高いが、実態は本格的なマンガ作品を作るというより小さな子どものお絵かき教室になっているとも聞く。比較的手軽に始められるアートという位置づけなのかもしれない。

もともとジャワやバリが稲作なら二期作、三期作ができ、その辺に勝手に果物が実っている豊かな環境で、あくせくしなくても生きていけるが故に、こうした芸術(と時間に対するルーズさ)が育まれたのだろう。欧米のリベラルアーツに通じるようなこの芸術への感覚を、大学までもが就職予備校化している日本は見習うべきなんじゃないかと思う。

国や民族ごとに適正の高い職業がある。日本人なら職人や接客だろうけど、ジャワ人、スンダ人、バリ人はアーティストだと思う。この先、ASEANの中でファッションやデザインをリードすることもあり得ると期待している。

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道端の絵描きさん