モスラはインドネシア生まれ:「未開」と「癒やし」の怪獣
知っている人も少なくないかも知れないが、怪獣モスラの巫女である双子の妖精が歌う「モスラーヤ、モスラ」という「モスラの歌」の歌詞(http://j-lyric.net/artist/a000b38/l011e4f.html)はインドネシア語である。
東宝の怪獣映画「モスラ」は 1961年公開。南海の孤島の守護神モスラが、人間にさらわれ、見世物にされた双子の妖精を救うために日本を襲撃するというあらすじである。「モスラの歌」の歌詞は、監督の本多猪四郎が日本語で作詞したのを当時、東京大学に留学していたインドネシア人学生がインドネシア語に翻訳したそうだ。
歌詞を見ながら聞いても、単語の切り方とかがメチャクチャだし、日常では聞かないような格調高い単語が多いので、ちょっとピンとこないが、守護神モスラの巫女である妖精が、モスラの加護を願うもので、「平和はわれらに残された生きる道、永遠の繁栄にわれらを導き給え」で歌い終わる。
「破壊神」と呼ばれるゴジラに対して、島の「守護神」であり、その後のシリーズでは地球を守るためにも戦ったモスラにふさわしい歌詞といえる。
モスラの歌(1961「モスラ」オリジナル・サウンドトラックより)(ステレオ版)
- アーティスト: ザ・ピーナッツ
- 出版社/メーカー: KingRecords
- 発売日: 2016/09/07
- メディア: MP3 ダウンロード
- この商品を含むブログを見る
なぜ、「モスラの歌」の歌詞はインドネシア語なのだろうか。
歴史的に見ると、インドネシア語はもともと、マラッカ海峡の東西で海上交易で使われていたに過ぎず、インドネシアの独立において多民族国家の共通語として採用されたために、広く用いられるようになった。なので外部との交流のない孤島の妖精が使う言葉としては不自然なチョイスではある。
が、南方の島ということでインドネシアかフィリピンか、その辺だったら何でもいいやぐらいの話だったのかもしれない。当時としては仕方ないだろう。今となっては、インドネシアに親しみを感じてもらうための鉄板エピソードになっているので感謝である。
日本人は戦前から南洋に怪獣がいてもおかしくないという「未開」のイメージと、未開であるがゆえの美しい自然やあるがままに生きる優しい人々による「癒し」のイメージを抱き続けてきた。この2つの典型的な南国像が交差して生まれたのが、心優しい怪獣モスラであろう。
モスラが、雄々しく、いかにも強そうなゴジラやキングギドラと並ぶ人気怪獣であるというのは、日本人、特に男性のメンタリティの傾向を反映しているのではないだろうか。